サイボクファーム 主任 浅野 芳里
私は生まれてすぐの子豚とその母豚のお世話をする、分娩舎で働いています。子豚を次の豚舎に移すまでの3週間の間に、健康に大きく育てるのが私の仕事です。生まれたばかりの子豚は手にのるほどの大きさですが、ここを出る頃には、7kgほどの大きさになります。生まれてすぐの頃は広く見えた部屋が、豚舎を移る頃にはパンパンになるんです。5年ここで働いていても、そんな様子を見るたび、「大きくなったなあ」と感慨深くなります。
でも悲しいことに、十分な大きさに育つことができず、3週間を生き抜くことができない子もたくさんいるのが現実です。そんな子たちを見ているからこそ、頑張って育ってくれた子を成長した豚のための豚舎にバトンタッチできるのは、本当にありがたいことなんです。気持ちよさそうに寝ころぶ姿は何度見ても可愛くて、見るたびにその「いのち」を強く実感します。できるだけたくさんのいのちを、次につなげたい。そんな想いで子豚たちと向き合っています。
ここで働く人はみんな、豚さんを家族のように思っています。短いいのちを少しでも快適に過ごしてもらうために、時間も労力も惜しまず寄り添う姿を見て、同僚ながら「すごいな」と思わされることばかりです。こうしてみんなで大切に育ててきたいのちだからこそ、残さず、美味しく食べてもらいたいという思いが強くあります。
本社の方から、お客様の声を教えていただくことや、販売を行う方から「いつもおいしいお肉をありがとうございます」とお声がけいただく機会があるんです。そうした声を聞くたびに、一生懸命豚さんと向き合ってきた日々が報われた気がします。もっといい状態のお肉を、安定してつくれるようになろう、と頑張る力になるんです。同じ会社の中で、お肉の製造・販売までを行っているからこその喜びですよね。
私にできるのは、一頭でも多く、元気で大きい豚を育てることです。鳴き声や、動きひとつひとつに気を配りながら、子豚や母豚たちが、もっと心地よく過ごすためにできることはないか、日々模索しています。
製造部 課長 上田 一郎
私の入社のきっかけは、「とんかつ」です。生活に不可欠な「食」を届ける仕事がしたい、と転職活動をしていた頃、「おいしいとんかつがあるよ」と友人からサイボクのレストランをおすすめされました。なんとなく向かったお店で、私は大きな衝撃を受けることになります。「こんなに美味しいとんかつ、食べたことがない!」ここでなら、お客様に自信を持って商品を届けることができると確信し、応募しました。
入社後、その味の秘訣を実感した瞬間がありました。朝礼で欧州国際食品品質コンテストの結果発表が行われた日のこと。メダルの数に感激しきりの私と対照的に、製造部の先輩たちはみな、どこか悔しそうな様子でした。理由を尋ねると、返ってきたのは「金メダルを取るのは当たり前。銀や銅をとってしまったことに、悔しさがあるんだよ」という言葉。先輩方のプライドに触れ、私の心にも火がついた瞬間でした。
とはいえ、メダルのために特別な商品を出品することはありません。普段お客様に販売している商品の味やそこに込められた技術が世界レベルで認められることに意味があると考えています。気温や湿度など日々環境が変化する中、一頭一頭状態が異なる豚肉を用いて、変わらないおいしさをつくるのは、とても難しいことなんです。安定したおいしさの指針としてメダルを捉えているからこそ、金メダルをとることにこだわりがあります。
もう一つ大切にしているのが「つなぐ」ことです。牧場のみんなが育てたおいしい豚肉を、先輩方が長年かけて作り上げてきたレシピと手法でおいしい商品にする。そうすれば、次に続く営業の方が自信を持って販売できる。「おいしさ」をつなぐために、技術を磨き、もっと手に取りたいと思ってもらえるよう、味はもちろん、色や形にもこだわっています。こうして頑張れるのは、自分の手で作った商品が、食べた人の喜びにつながっていくことを実感できるから。工場で働く私たちのもとにも、お客様の声はしっかりと届いています。
営業部 本店店長 小川 夏季
売り場で働く私たちの使命は、牧場、工場とつないできた商品の魅力をお客様の手元に届けること。そのために大切にしているのがお客様との会話です。精肉を対面で量り売りするシーンや店頭で接客する際には、おすすめの商品や食べ方はもちろん、牧場で豚さんを育てる際のこだわりや、工場での商品づくりに込められた想いを添えてお伝えするよう心がけています。
反対に、お客様の方からお声がけいただく機会も多々あります。なかには「この商品が好き」「うちではこうやって調理するの」と、私たち以上の熱量でお話ししてくださる方も。そんな時は、勉強させてもらうつもりでお話しを深掘りさせていただきます。
お客様からの熱いプレゼンからは、思ってもみなかった商品の可能性を学ぶことばかり。いただいた声を元に販売の方法を変えることや、新商品の開発につながることもあります。私たちの豚や豚肉へのこだわりや想いを理解し、共感してくださるお客様がたくさんいること、お客様と一緒においしさを作り上げていることが、私たちの強みです。
大切に育てられた豚さんを余すことなく、おいしく食べてもらうことが永遠のテーマですが、なかなか注目してもらうことのできない部位が出てしまうこともあります。私の大好きな肩ロースも、そんな部位の一つでした。サイボクの肩ロースの特徴は、濃い味付けにも埋もれることのない旨みの強さ。しゃぶしゃぶにしたら絶対にそのおいしさが伝わるはずだと、みんなでアイデアを出し合いながら、商品化しました。実は、肩ロースしゃぶしゃぶの販売は2度目。1度目は、商品の存在に気づいてもらえなかったことが原因で、終売になってしまったと分析していました。
リベンジのつもりで、目立つ場所にたくさんの商品を並べ、試食を積極的に行うなど、お祭りのように売り込みました。結果、多くのお客様にお買い上げいただき、肩ロースのしゃぶしゃぶは無事、レギュラー商品になりました。お肉の個性を理解し、魅力が引き立つ商品を提供できれば、お客様にも魅力が伝わる、と強く実感した瞬間でした。次に焦点を当てたいのはヒレ肉。栄養バランスに秀でたヒレ肉の魅力をどう伝えていくか、楽しく頭をひねる毎日です。